小林によるリボソームRNA遺伝子(rDNA)の機能に関する仮説がBioEssays誌(オンライン版)に掲載されました。

タイトル「細胞老化と癌化抑制におけるrDNAの役割 – rDNA仮説」
掲載誌BioEssays 30, 267-272 (2008); DOI: 10.1002/bies.20723
著者小林 武彦
論文の要約 リボソームRNA遺伝子(rDNA)は100コピー以上が繰り返して存在する巨大反復遺伝子であり、染色体中で最も安定性の低い領域です。そのためrDNAの状態(安定性やコピー数等)が細胞の機能に影響を与えている可能性が考えられます。本論文では、rDNAの遺伝子以外の生理機能として、老化促進作用とゲノムの安定性維持機構について考察しています。
 以前よりゲノムの不安定化が細胞老化の原因の1つと考えられていましたが、その具体的な機序については不明でした。小林は元々不安定なrDNAが、時間の経過により他のゲノム領域よりも優位に(早く)不安定化し、その産物であるリボソームRNAの質と量を低下させることで、細胞老化を促進している可能性をあげています。つまりrDNAの不安定性が細胞の老化速度を決める1つの要因ではないかと推察しています(細胞老化のrDNA仮説)。
 またrDNAはその不安定性ゆえに、外的、内的な刺激(紫外線や活性酸素等)に対して非常に感受性の高い領域です。この性質から小林はrDNAが一種の「ダメージセンサー」として機能し、刺激にいち早く反応し、チェックポイント制御等のゲノム保護機構を活性化するための「シグナル」を出す役割を担っているのではないかと推察しています(rDNAのダメージセンサー仮説)。この仮説によれば、rDNAの不安定性はアポトーシスや癌化抑制にも働いている可能性があり、今後重要な研究分野に発展すると期待されます。
原題A new role of the rDNA and nucleolus in the nucleus – rDNA instability maintains genome integrity 
Kobayashi, T.
BioEssays 30, 267-272 (2008); DOI: 10.1002/bies.20723