研究内容

当研究室ではゲノムの再生機構について酵母、マウス、ヒトを使って研究しています。
生命はその誕生以来連続しています。しかし個体、あるいはそれを構成する細胞の大部分は「寿命」を持っており、時間と共に老化して死んでしまいます。それでも生命が途絶えることがなく維持されているのは、数は少ないですが死なない、あるいは死ににくい細胞が存在するためです。例えばその代表例は「生殖細胞」です。生殖細胞の寿命は長く、また世代を超えて形を変え生き続けます。さらに、新しい細胞を生み出す「幹細胞」もその個体の生涯を通じて途絶えることはありません。そこで疑問となるのは、これらの死なないあるいは死ににくい細胞と他の大多数の寿命のある細胞とは、いったい何が違うのでしょうか。この問題を解決すべく、我々は遺伝情報であるゲノムの維持機構に着目して研究しています。

ゲノムの維持・再生機構の解明を目指す

熱力学の第2法則の1つの説明として「エントロピー(乱雑さ)は常に増大する」というのがあります。例えて言うならきれいに片付いた部屋も時間がたてばだんだん散らかっていき、形あるものは徐々に壊れていくということになります。これを生物に当てはめると「老化」になります。しかし、生物が途絶えることなく存在してきたということは、第2法則に逆らって「秩序」ができていることになります。これは具体的には「発生」や細胞の「初期化」に相当します。この生物特有の「若返り現象」が可能なのは、生体を構成する成分が、壊れては絶えず新しいものと入れ替わっているためです。そこで問題となるのは生物の設計図であるゲノムです。ゲノムは遺伝情報です。情報自体は劣化しませんが、それが書かれているDNAは物質なので壊れます。またDNAに書かれた情報は細胞から細胞、親から子へ受け継がれていくため、新しいものと完全に入れ替えることも出来ません。そのため生殖細胞や幹細胞といった長生きの細胞では、うまいこと情報が損なわれないようにDNAを「複製」し継承する仕組みがあるはずです。この仕組みの解明を、出芽酵母と動物細胞を用いて行っています。

若返りの分子機構の解析

「死なないあるいは死ににくい細胞」は時間の流れに逆らって自己をリセットし、機能を回復させる能力を持っていると考えられます。この機構としては、おそらく細胞分裂時の細胞内物質の選別機構や不等分配、つまり質のいいものを選んで再利用し、逆に古くなったものをもう一方の細胞に押し付けて、「死なない細胞」の機能を維持していると考えられます。この選別機構の解明を行っています。

図の説明 出芽酵母は不等分裂により死なない細胞「娘細胞(上)」と寿命を持つ細胞「母細胞(下)」に分かれます。娘細胞は分裂により「リセット」が起こり若返りますが、母細胞は逆に老化が進み約20回の分裂の後、死んでしまいます。これと同様の不等分裂が動物の幹細胞の分化時にも起こっています。