リボソームRNA遺伝子の核膜孔への移動を発見した論文がPlos Genetics誌に出版されました。

「老化と若返りの鍵を握る遺伝子」は、自ら病院を訪れ、治療を受ける ~リボソームRNA遺伝子の核膜孔への移動を発見~

<研究の概要>
地球上のすべての生物が持つリボソームRNA遺伝子は巨大な反復配列を形成しており、DNA二本鎖切断を受けると容易にコピー数が増減してしまう不安定な性質を持っています。このrDNA不安定化は細胞老化の原因の一つであることが知られており、rDNAの安定維持機構の理解はとても重要です。
今回、私たちの研究チームはDNA二本鎖切断を受けたrDNAが核辺縁まで移動して、核膜孔複合体に結合することを発見しました。この移動と結合が失われるとrDNAが不安定になったことから、核膜孔結合がrDNA不安定化の抑制に重要な役割を果たしていると考えられます。
このような核膜への移動は、負傷した人が病院を訪れる様子とよく似ています。現場で処置できないような傷を負ったrDNAは、自ら動いて病院を訪れます。『核膜孔病院』ではrDNAを修復して安定化させる治療が行われていますが、これはすなわち老化を抑制するアンチエイジング治療でもあります。本研究で明らかとなった核膜孔への移動によるrDNA安定化の理解が、細胞の老化と若返りの機構の解明に寄与することが期待されます。

<掲載雑誌> 雑誌名:「PLOS Genetics」DOI:10.1371/journal.pgen.1008103
論文タイトル:Ribosomal RNA gene repeats associate with the nuclear pore complex for maintenance after DNA damage.
著者:*Chihiro Horigome, *Eri Unozawa, Takamasa Ooki, Takehiko Kobayashi (* equal contribution)
出版日:2019年4月18日 巻(号):15 ページ番号:e1008103

<新聞等の報道>
2019年7月9日東京大学新聞
 https://www.todaishimbun.org/rdna_maintenance20190723/
東大定量研ニュース
 http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/news/20190524/

「細胞が遺伝子の数を数えて維持する仕組みを解明」がMolecular Cell誌に出版されました。

発表雑誌: Molecular Cell(2019年1月3日電子版発行)
論文タイトル:RNA polymerase I activators count and adjust ribosomal RNA gene copy number
著者:Tetsushi Iida and Takehiko Kobayashi

<要旨>私たちヒトを含めた生物の細胞は、さまざまなタンパク質を合成することで細胞の機能を維持しています。そのためタンパク質合成を担うリボゾームを大量に安定供給することは、全ての細胞にとって非常に重要です。それには、同じ遺伝子が多数連なった反復遺伝子であるリボゾームRNA遺伝子が安定に保持される必要があります。しかし、減少しやすい性質を持った反復遺伝子のコピー数を、細胞がどのように一定に保っているのかは長い間謎でした。 今回我々は、ちょうど「イス取りゲーム」で座れなかった大勢の人が、イスを増やすように審判に働きかけ、人数に見合った一定数のイス(遺伝子)を維持していることを発見しました。つまりイスが、減少しやすいリボゾームRNA遺伝子、ゲームに参加するプレーヤーが今回発見したカウンター因子UAF、そして椅子の数を調整する審判役が組換え抑制遺伝子SIR2にそれぞれ相当します。SIR2はリボゾームRNA遺伝子の安定化を通して寿命を維持する長寿遺伝子としても知られています。

Young Best Poster賞を受賞
<成果についての報道>
2019年1月4日 日本経済新聞電子版
https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP498792_R21C18A2000000/

2019年1月4日 記者会見