小林武彦教授の著書『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)が「新書大賞2022」第2位を受賞しました。

中央公論新社が主催する「新書大賞」は、1年間に刊行されたすべての新書から、その年「最高の一冊」を選ぶ賞です。「新書大賞2022」では、2020年12月~2021年11月に刊行された1300点以上の新書を対象に、有識者、書店員、各社新書編集部、新聞記者など新書に造詣の深い方々105人に投票し、大賞小島庸平著『サラ金の歴史』(中公新書)、2位小林武彦著『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)、3位伊藤俊一著『荘園』(中公新書)が選ばれました。

https://chuokoron.jp/shinsho_award/

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000351419

DNA配列間の情報交換により品質を管理する機構の発見

  1.  発表者:
    堀 優太郎(東京大学定量生命科学研究所 ゲノム再生研究分野・助教)
    嶋本  顕(山陽小野田市立山口東京理科大学薬学部 再生医療学分野・教授)
    小林 武彦(東京大学定量生命科学研究所 ゲノム再生研究分野・教授)
  2. 今回の発見のポイント:
    ◆長鎖DNA解析技術を用いて、最大の繰り返し遺伝子であるリボソームRNA遺伝子の全体像を初めて明らかにしました。
    ◆これまでの報告とは異なり、リボソームRNA遺伝子は綺麗に直列に並んでいました。
    ◆リボソームRNA遺伝子には、周りとの情報の交換により配列を均一化する品質管理機構があることが判りました。
    ◆ゲノムの不安定化によって引き起こされるがんや老化の研究発展への寄与が期待されます。
  3.  論文概要:
    ゲノムとはその生物の持つ全遺伝情報であり、DNA配列として細胞に収納されています。ヒトのゲノムは2003年に解読されましたが、短い配列(数十〜数キロ塩基)を繋ぎ合わせて全体を組み立てる方法を用いたため、ゲノムの半分近くを占める反復配列の領域の構造を正確に決めることはできませんでした。
    近年英国のオックスフォード・ナノポア社や米国のPacBio社が、連続した長い配列を解読可能な装置を開発しました。これらの解析装置では、数十〜数百キロ塩基のDNA配列を解読することができるため、これまで不可能だった数キロ塩基(数kb)以上の繰り返し配列の解析が可能になりました。
    この技術を用い、東京大学定量生命科学研究所の堀優太郎助教と小林武彦教授は、山陽小野田市立山口東京理科大学薬学部の嶋本顕教授との共同研究で、ゲノム中で最大の反復遺伝子であるリボソームRNA遺伝子(200~700コピー、rDNA)の全体構造を解析しました。その結果、これまでのrDNAの約3割は異常な構造を持っているという定説を覆し、99.8%は規則正しい直列反復構造をとっていることを解明しました。しかも近接するコピーほどその構造やメチル化修飾パターンが似ていること、また日本人に共通した特徴的な配列も発見しました。さらには、寿命が短くなる遺伝病の細胞では、構造変化の割合が増えていることもわかりました。
    以上の発見からrDNAには、配列間の情報の交換により均一化する品質管理機構が存在することがわかりました。本成果は、ゲノムの異常で引き起こされる老化やがん化研究の基礎研究として、重要だと考えられます。
  4. 発表雑誌:
    雑誌名:「Genome Research」 (2021年8月)
    論文タイトル:The human ribosomal DNA array is composed of highly homogenized tandem clusters
    著者: Yutaro Hori, Akira Shimamoto and Takehiko Kobayashi
    DOI番号:10.1101/gr.275838.121

URL:https://genome.cshlp.org/content/early/2021/10/11/gr.275838.121.full.pdf+html

<報道等>

プレスリリースhttps://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z0207_00049.html
日経産業新聞 2021年10月15日

DNA複製のタイミングとゲノムの安定性についての論文が米国微生物学会誌の「注目論文」に選ばれました。

雑誌名:「Molecular and Cellular Biology」 DOI: 10.1128/MCB.00324-20

論文タイトル:The S-Phase Cyclin Clb5 Promotes rRNA Gene (rDNA) Stability by Maintaining Replication Initiation Efficiency in rDNA

者:Mayuko Goto, Mariko Sasaki, Takehiko Kobayashi

後藤 真由子、佐々木 真理子、小林 武彦

論文概要: 

遺伝情報を守るメカニズムを発見

ーDNAを素早くコピーすることが遺伝情報の安定な維持に大切ー

細胞が殖える時には、事前にDNAを正確に複製(コピー)し、複製されたDNAを娘細胞に分配します。DNAの遺伝情報を短時間でコピーするために、細胞はDNA上の多くの場所から複製を始めます。DNA複製過程で異常が起こると、誤った遺伝情報が娘細胞に受け渡され、ガンや様々な病気の発症につながります。東京大学定量生命科学研究所の小林武彦教授と佐々木真理子助教、大学院生の後藤真由子は、細胞周期の進行、特にDNA複製の開始を司るClb5タンパク質をもたない出芽酵母の細胞では、リボソームRNA反復遺伝子の一部が削られたり増幅したりしてDNAが不安定になることを発見しました。Clb5タンパク質がないと、DNA複製開始の頻度が減少し、複製開始点同士の間隔が長くなり、複製装置が長く移動する必要が生じます。そのため複製装置の停止などのトラブルに遭遇しやすくなることが明らかになりました。これらの発見から、細胞がどのようなメカニズムで膨大な遺伝情報を正確に複製し、がん化などを回避しているのかを明らかにすることができました。

<報道等>

プレスリリース

http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/pressrelease/210331-1/

米国微生物学会誌

https://mcb.asm.org

加齢に伴うゲノムの変化を調べた論文がMol Cell Biol誌に出版されました。

雑誌名:「Molecular and Cellular Biology」 DOI: 10.1128/MCB.00368-20
論文タイトル:Age-dependent ribosomal DNA variations in mice
著者:Eriko Watada, Sihan Li, Yutaro Hori, Katsunori Fujiki, Katsuhiko Shirahige, Toshifumi Inada, and Takehiko Kobayashi

<論文概要>
なぜ年をとると病気になりやすくなったり、いわゆる衰えを感じるのでしょうか?その原因を探るため生物の設計図であるゲノム、中でも特に遺伝子数が多く変化が激しいリボソームRNA遺伝子に注目して調べました。
私たちは、定量研の白髭克彦教授、東北大学大学院薬学研究科の稲田利文教授らとの共同研究を行い、若いマウスと高齢マウスのリボソームRNA遺伝子を比べたところ、DNAメチル化の上昇、遺伝子の発現量の低下、DNA配列の変化(変異)を発見しました。興味深いことに高齢マウスで見つかった変異を酵母菌に導入したところ、酵母菌の寿命が短縮しました。リボソームRNA遺伝子に起こる変異がマウスでも老化の一要因になっていると考えられます。ヒトとマウスのリボソームRNA遺伝子は非常によく似ていることから、ヒトでも同様に老化の原因となっていると予想され、人の老化に伴う疾患の治療薬の開発などに繋がる可能性があリます。

<報道等>
11月1日 日本経済新聞朝刊
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65712390Q0A031C2MY1000/
プレスリリース
http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/category/press_release/

リボソームRNA遺伝子の核膜孔への移動を発見した論文がPlos Genetics誌に出版されました。

「老化と若返りの鍵を握る遺伝子」は、自ら病院を訪れ、治療を受ける ~リボソームRNA遺伝子の核膜孔への移動を発見~

<研究の概要>
地球上のすべての生物が持つリボソームRNA遺伝子は巨大な反復配列を形成しており、DNA二本鎖切断を受けると容易にコピー数が増減してしまう不安定な性質を持っています。このrDNA不安定化は細胞老化の原因の一つであることが知られており、rDNAの安定維持機構の理解はとても重要です。
今回、私たちの研究チームはDNA二本鎖切断を受けたrDNAが核辺縁まで移動して、核膜孔複合体に結合することを発見しました。この移動と結合が失われるとrDNAが不安定になったことから、核膜孔結合がrDNA不安定化の抑制に重要な役割を果たしていると考えられます。
このような核膜への移動は、負傷した人が病院を訪れる様子とよく似ています。現場で処置できないような傷を負ったrDNAは、自ら動いて病院を訪れます。『核膜孔病院』ではrDNAを修復して安定化させる治療が行われていますが、これはすなわち老化を抑制するアンチエイジング治療でもあります。本研究で明らかとなった核膜孔への移動によるrDNA安定化の理解が、細胞の老化と若返りの機構の解明に寄与することが期待されます。

<掲載雑誌> 雑誌名:「PLOS Genetics」DOI:10.1371/journal.pgen.1008103
論文タイトル:Ribosomal RNA gene repeats associate with the nuclear pore complex for maintenance after DNA damage.
著者:*Chihiro Horigome, *Eri Unozawa, Takamasa Ooki, Takehiko Kobayashi (* equal contribution)
出版日:2019年4月18日 巻(号):15 ページ番号:e1008103

<新聞等の報道>
2019年7月9日東京大学新聞
 https://www.todaishimbun.org/rdna_maintenance20190723/
東大定量研ニュース
 http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/news/20190524/

「細胞が遺伝子の数を数えて維持する仕組みを解明」がMolecular Cell誌に出版されました。

発表雑誌: Molecular Cell(2019年1月3日電子版発行)
論文タイトル:RNA polymerase I activators count and adjust ribosomal RNA gene copy number
著者:Tetsushi Iida and Takehiko Kobayashi

<要旨>私たちヒトを含めた生物の細胞は、さまざまなタンパク質を合成することで細胞の機能を維持しています。そのためタンパク質合成を担うリボゾームを大量に安定供給することは、全ての細胞にとって非常に重要です。それには、同じ遺伝子が多数連なった反復遺伝子であるリボゾームRNA遺伝子が安定に保持される必要があります。しかし、減少しやすい性質を持った反復遺伝子のコピー数を、細胞がどのように一定に保っているのかは長い間謎でした。 今回我々は、ちょうど「イス取りゲーム」で座れなかった大勢の人が、イスを増やすように審判に働きかけ、人数に見合った一定数のイス(遺伝子)を維持していることを発見しました。つまりイスが、減少しやすいリボゾームRNA遺伝子、ゲームに参加するプレーヤーが今回発見したカウンター因子UAF、そして椅子の数を調整する審判役が組換え抑制遺伝子SIR2にそれぞれ相当します。SIR2はリボゾームRNA遺伝子の安定化を通して寿命を維持する長寿遺伝子としても知られています。

Young Best Poster賞を受賞
<成果についての報道>
2019年1月4日 日本経済新聞電子版
https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP498792_R21C18A2000000/

2019年1月4日 記者会見